３月７日（月）七日目

　何に頼って起きたのかハッキリしないが目は覚めた。あれだけ睡眠が足りてなかったのに、朝になると目が覚めるもんだな。

　テレビが有料なので（そして貧乏なので）、旅の相棒であるラジオを聞くことにした。
　天気予報によれば、俺のいる松山は雷雨になるという。やはり駅前で祈ってもらわなかったから罰が下ったのだろうか。
　とりあえず急いで出発する事に決めた。

　宿を出るときにロビーで、泊り客である中年の僧侶と話した。
　聞かれなきゃなにも言う気はないけど聞かれたので、俺は四国一周をしているのだと言うと、自転車は何段変速だと聞かれた。３段だというと、たった３段かと驚かれた。どうも彼は本物のサイクリストらしかったので。（彼ははじめ23段と聞き間違えた。３段変速というのは彼の想像の範疇を越えていたのだろう。にしても23段って変じゃね）

　駅前の、「中野家」というパチもんくさい牛丼屋で牛丼（４００）を食べ、松山をあとにした。

　十一面観音が７人もいるという太山寺（松山市太山寺町）へ向かう。
　ほんらいの旅ルートからは、かなり逸れることになるんだけど、やっぱりその７人とやらを見たくてけっこうな坂を押して到着。
　どうも見られない感じだった。というか、見せてくれとも頼まなかった。雪蹊寺での経験が、どうせ言っても見せてくれないんだろうなと思わせたのだ。
　こういうときは、ちぇ、どうせたいしたことないんだろ、と思いながら出発。銭屋五兵衛の奉納した玉垣があった。

　天気予報を素直に信じてデイリーストアでビニル傘を買った。
　店を出てすぐに雨が振りはじめた。買って良かった、とは思ったが雨が降って良かったと思うかよ馬鹿。

　雨はずっと止まない。昼過ぎ、ガード下で大好きなレーズンバターロールを食べながら少し休憩。レーズンバターロールは日保ちするし飲み物なしで食えるパンなので大好きだ。なぜあんなパサパサしたものを飲み物なしで食えるのかは今もって不明。まさか俺だけじゃないだろうな。

　雨は止まない。傘を差しながら走るのはとても危険で、差している意味もない感じだったので、最終的に傘なしで（もちろん雨具もなし）走る事になった。
　とにかくいちばん近い街であると思われる今治市までノンストップ。
　３月の昼間とはいえ雨は冷たく俺を打つ（と当時は思っていたが、３月はまだ冬だ）。正面を向くと雨が顔を打ち首筋に雨が入るので、ずっと下のほうを見ながらペダルを踏みつづけ、ときおり首を上げ、案内標識で今治までの距離を確認し、また首を元に戻し、もしペダルを踏む自動人形があれば俺はちょうどペダルを踏む自動人形のようにペダルを踏みつづけた。

　けっきょく松山から雨の中５０キロ近くばかり走って、１５時半ごろ今治駅に到着した。
　とりあえず今日の寝床を、と思って駅の観光案内所に。
　ずぶ濡れたカラダの俺に、係のきれいなおねいさんは椅子に座るようにすすめたので恐縮しながら座った。ホテル福亭５５００円。
　じゃあ松山で連泊すればよかった、と思った。

　案内所で宿を頼むと、その場で金を払う（手数料込）。

　そんなとき、自分が金を持っていないことに気づいた。財布を見ると５５００円なんて無かった。
　〔もしものために〕とリュックの底に一万円を入れていたことを思い出し、「少々お待ちください」とおねいさんが向こうを向いている間に俺は何も言わずリュックのある自転車のもとにダッシュ、リュックの底に手をつっこみ一万円を探しだして戻った。おねいさんは待っていてくれた。
　そして水分を得てへなへなになった一万円札で支払い、宿を取ることができた。いま調べると、すげえ駅に近い宿だ。
（ちなみに現在の「もしもの時の一万円」は、カードサイズにラミネート加工したものだ。どーせどこのレジにもハサミぐらいあるだろうしと。いまんとこ使ったことはないけど）

　身体は濡れているが、飯を食わねばならない。近くの商店街へゆき、ニチイで靴下などを買った。それまで履いてたのは捨てた。
　記憶の中の今治の情景は、雨のせいか、モノトーンだ。

　もどりしなに、歩道橋の近くにあった「ＭＩＮＩ ＨＯＵＳＥ」というラーメン屋でニンニクラーメンを食べた。ここの麺は手打ちで、平べったいものだった。客は俺一人だったがけっこう良かった。４５０円。四国は物価、安いんじゃないか。

　部屋のビデオは１００円を入れても映らなかった。大浴場に行ったが機能していなかったので、ユニットバスを使った。部屋の机のヒキダシにはエロマンガ誌が入っていたが、良いものはなかった。

ほかの出費
　スナック２種・プリングルズ（５１２／プリングルズがまだ輸入菓子だったころだ）　ビニル傘（３９１／普通は家から持参するもの）　洗剤・下着・靴下（１６７８）

　走行距離
　松山→今治　４５ｋｍ