ひるごろ、大阪から東京の自宅に帰ってきた。すぐに荷造りだ。自転車はすでにカートにしばりつけカーテンでくるんでいるので、背負う荷物造り。
　すでに入れていたもののほか、デジカメだなんだそのへんのコマゴマしたものを詰め込むと、デイパック（ジャックウルフスキン／ＶＩＰＥＲ）はいっぱいになってしまった。自炊セットを入れようと思ってたんだけど、まあ、コンビニもたくさんあろうから、つうかずっと内陸の国道だから火をおこすとかはできそうになさそうだから、いいか。

　１時間くらいだらだらしたあと、家を出る。
　カートは、コンパクトサイズだからかトレッドが狭く、そこへ載せる荷物（自転車）が思いっきり幅広で、すげえふらふらするが、まあ、抱えていた頃に比べればずいぶん楽だ。段差などがなければ快適に進む。
　風は、いつもより強い。なんでだろう。颱風か。そういえば今晩あたり新潟方面に颱風が来るとか誰かが言ってたような気はするが。
　でもなあ、年に一度の連休なんでなあ、出なきゃなあ。そういう六つかしいことは向こうについてから考えればいいし。

　カートです。折り畳んだとき、とにかく小さく軽くなるのを選びました。４０００円くらい。

　列車は、車内広告のなかで選ばれた広告たちばかりの車両。マグライトの広告を見て、あー、持ってくるの忘れた、と思った。まあ、そんなに夜に走らないからいいか、と思った。

　東京駅に著き、新幹線券売り場に。電光掲示板による空席状況をみてみると、すぐに出るのはグリーン車しか残ってない。俺は自転車をデッキに固定する作業があるのでゆっくり乗り込むため、できれば指定席がいい。でもグリーン車は俺のようなものの乗るところではない。ということで１５時４０分発の［とき４０５号］にした。席は１０号車４Ａ。（１０２８０）

　ちなみに高速バスで新潟まで行ったばあい、半分くらいの出費ですむんだけど、前述のとおり出発が池袋になるんですね。池袋はあまり降りない駅なんで自信がなく、さらには始発がサンシャインと遠い（駅前にもバスは来るんだけど、自転車をバスのトランクにぶちこむ必要上、始発から乗りたい）。正直それはしんどい。（自転車に乗っていけばいいのに）

　余談を挟んでも発車まで時間がじゅうぶんあったので、とりあえず飯を食うことにし、京葉線のほうに行くときにいつも見ていたカレー屋に入り、カツカレー（８００）。
　隣の若女は早速ビイルを呑んでいた。うらやましい。
　手拭いを持ってきていないような気がしたので、近くのユニクロや無印ＣＯＭに入り探すがなく、しかたなく無印でフェイスタオルを購入（６３０）。高いな。ぺらっぺらの粗品タオルで良かったんだが。
　発車時刻も近づいてきたので改札を抜けホームに上がり、ＮＥＷＤＡＹＳで爽健美茶５００ペットとショートホープを２箱（４２７）。
　読む本がねえなと思ったので「週刊アスキー」（３００）。

　２１番ホームに、とき４０５号はやってきて、俺は乗り込み自転車をデッキに固定。吸殻入れの邪魔をするような感じになってしまったが仕方がない。

　ものすごいスピードで空から降ってきたように見えますが、ブレただけです。

　座席は坐面と背もたれが別に可動するタイプだった。

　外はえんえん、道路と緑と住宅。道は平坦のようだ。けっこう楽かも。

　各駅停車のものだったので、ゆるりゆるりとひと駅ずつ進んでいく。まあ、初めて乗る路線だから、各駅の方がありがたい。駅の名前をぼんやりと記憶にとどめる。

　まあ、なにもすることもなく、週アスを読み終え、坐面背部に置いてある小冊子を読んだり地図をながめたり。

　１８時２分に新潟着。自転車を持っているので、いちばん最後にゆっくりと車両から出る。全員出たと思った掃除のおばちゃんとはちあわせ。すまんすまん。

　空気は、もあっとする。新潟も暑いな、やっぱり。楽に野宿ができそうだ。

　とりあえず海に行きたいので、北側にある出口から出た。長い渡り廊下を通って、バスターミナル的な広場に。

　新潟駅前は、俺が思っていたより繁盛していた。やはり女子高生のスカートは短い気がした。

　どっこで自転車を変形させようか、と思いながらがらがら自転車をひきずり、そこそこ人の通らない、びゅうプラザの前の放置自転車があるところで変形することにした。

　５メートルくらい先で、若者が弾きがたっていた。若女が数人、そばに坐って陶酔の表情で眺めていた。

　カーテンをはずし、自転車をトランスフォーム。フロント部のヒンジが非常に固くなっているので難儀する。軍手を持ってきていてよかった。

　ハンドルに前バッグ（モンベル）をとりつけ、デイパックからこまごまとした品々（バンテリン、ひやけどめ、シーブリーズ、カッターナイフ、虫よけ虫さされ、など）を前バッグに移し、キャリーカートを畳んで荷台に置き（これがまたぴったり）、折りたたみ椅子を置き、カーテンや着替えを入れたナイロン袋をゴムひもでしばりつける。ライト（ＣＡＴＥＹＥ）をとりつけ速度距離計（ＣＡＴＥＹＥ）をとりつけ。ボトルホルダーには飲みかけの生茶。

　準備オッケ。よっし。一服。

　１８時４０分、スタート。

　けっこう風がある。それが土地柄なのか、颱風のせいなのかはよくわからない。

　しばらくは、大きな道の左右に、屋根つきの店みせがならぶ、いわゆる大きな地方都市の風情の歩道を通る。徹底してスローペースで、むりやり他人を追い抜くこともせず。
　今回初の装備であるバックミラーを調整しながら、やっぱ使えねえなと思いながら。

　パンツ丸出しで体育坐りをしている若女がいた。わざとだろうか。

　万代橋をわたる。たしか、ばんだいばし、と読むんだ。セガが新潟に本社を移せばセガバンダイ橋になるかもしれないなどとは思わず、するする移動。（そういう時期だったんですかね）

　橋を渡るころにはあかりも減り、暗くなってきた。そう、もう夜だ。
　日本銀行支店長宅、みたいな史跡にちょっと興味を持ったが、もう夜なので開いているわけもなく、会津八一記念館も開いているわけもなく、海に着いた。風は強い。蒸し暑い。そらは厚い雲。降るのかな。
　そこはコンクリの消波ブロックで構成されていた海岸だったので、尻ポケットに入れている地図（常に９枚中３枚くらい入れてました）をながめ海水浴場を探す。東のほうにあるような気もしたが、砂浜のために遠回りをするのは面倒なので西へ。
　進んでもとくに事態は好転せず、ずっとそんな海岸。自動車道が大きく内陸に折れたので、そのあたりで砂浜探しはあきらめ、消波ブロックの海岸に降りる。
　海藻のようなものに足を滑らさぬよう気をつけながら、海面に足をつける。

　よし、海抜ゼロメートル。これがほんとのスタートだ。

　夜半から未明にかけて台風がくるから火に気をつけようと消防団だかのクルマが通った。俺はどうすればいいんだろう。気はつけるけどもさ。
　関屋分水路ぞいに南に進む。地図によるといくつか目の橋を渡ったところにジャスコがあるはずなので、ジャスコが見えたら橋を渡ろう。
　なんて思いながら走っていても、対岸にジャスコは見えない。もしかしたらつぶれたのか、ジヤトコだったのか、いやキャスコか、など思いながら仕方なく橋を渡ると、ジャスコがあった。２階建てだった。食品フロアは２４時間営業だそうだ。駅を出てからおよそ９ｋｍ。
　とりあえず食料を買っておこう、とトップバリュのカシューナッツ、ウィダーみたいなドリンクゼリー×２、トラベル用歯みがきセット、メンズビオレ爽快シートを購入（８７３）。
　２０時すぎに店を出る。このまま国道８号線だ。

　食料は買ったものの、なんか店内で食っておかなくてよかったのか、という思いがちらちらと脳裏をよぎるが、まあ、もう出てしまったのものはしかたがない。どこかにあるだろう、国道だし。

　早く出たことによる余裕からか、ペダルを軽く踏み、のんびりと走る。

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　じつはこういう計算をした。
　もともと深夜バスで翌朝６時からのスタートの予定だった。それが今日の１８時スタート。１２時間も早く出た。
　日数は２０、２１、２２日と３日もある。つまり７２時間だ。それと今日の１２時間、８４時間もある。距離は２００ｋｍだから、時速２〜３ｋｍで進めばいい。余裕があるにもほどがある。歩いてでも間に合う。早く著きすぎてしまうかもな、なんて思っていた。

　しかしですね、旅を終えてこれを書いている今になって考えると、計算がおかしいですね、これ。
　そもそも出発したのは１２時間早かったわけですが、うち６時間は２０日のぶんです。
　つまりプラスになったのは６時間。７２＋６で７８時間だ。
　それに、最終日は草津付近から鉄道で帰るつもりで、おそくとも１５時台のに乗らなきゃいけない。つまり最終日は多く見積もって１５時間。

　ということはぜんぶで６９時間だ。俺の妄想数値である８４時間から１５時間も尠い。

　さらに言えば、２００ｋｍというのも、渋峠までの距離なんですよ。
　渋峠から、草津近辺の駅までが３５ｋｍ。

　つまり６９時間で２３５ｋｍ。

　蛇足になるがバカな俺のために付け加えると、６９時間というのは全部を走行に充てられるわけじゃあ、ない。
　毎晩２４→６時まで睡眠するとして、３日で１８時間。３食を店で食うとすれば１回に１時間はぼんやりするから８食で８時間。
　これで残り４３時間。
　さすがにメシ休憩のみで走り続けられるとは思っていないので１時間に１０分の休憩をするとなると、残りは３６時間くらいになる。

　俺の皮算用の半分以下になってしまった。

　まあ、２３５ｋｍを３６時間、ということは、時速６．５ｋｍでいけばいいんですけど、しかしですね、世の中そううまくいくもんじゃないんですよ、おもしろいことに。

（ちなみに、このように冷静になって時間を計算したのは今回が生まれて初めてであり、これまでずっと、総時間を総走行時間にあてはめる、という計算法をもちいていました）

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　そんな余談をしているうちに、レシートによると２０時４６分、おれはモスに入店していました。モスバーガーのサラダセットにオレンジジュースという、俺にしてはあまりない組み合わせ。

　ぼんやりと地図をながめ、タバコを喫い。

　とりあえず、眠くなるまで走って、眠れそうな場所を見つけたらそこで寝よう、と思う。

　思ったが、颱風だ。

　モス内の新聞を見るが、いまひとつ天気の様子がわからない。でもいまの風からすれば、颱風がきていることはまちがいない。

　野宿できるのかなあ。

　三条市とか長岡市にいけば、カプセルホテルとか健康ランドとかがあるんじゃないか、でも俺そんなに走れるのか、などいろいろ思いながら、いろいろ思っても結局することは同じで、走れるまで走る、と。

　２１時１５分に、モスを出た。

　ちなみにスタートしてまだ１０ｋｍちょい。
　新潟駅をでて２時間、時速５ｋｍだ。時速６．５ｋｍにすら達してない。

　蒸し暑い。

　このへんはまだ、いわゆる地方国道という感じで、自動車デーラーがたちならんでいました。
　つうか、スバルのデーラーが、多い気がした。都内じゃそんなに見かけないというか修理工場に併設、みたいな感じのものが多いような気がしていたんだけど、なんか、でっかいデーラーがトヨタや日産と肩を並べるとはいわないものの、多かった。
　やっぱこのへんは雪が降るから、４駆の車が人気なのかもしれないなあ、と思った。マツダのデーラーも、展示車はアクセラどまりで、へたすりゃＡＺワゴンとか置いてあって、やはり４駆がハバをきかしている土地なんだろうと思った。

　思い出したので書いておきますが、スバルが多かったからなのか、ほかの騒音がない山道を多く走ったからなのかわかりませんけど、いわゆるボクサーサウンドというのが、ようやく、わかりました。たしかに、特徴的だ。つぎはロータリーサウンドだ。

　２１時４２分、白根市に入ります。まだ１６ｋｍしか進んでません。

　ヘッドランプが、暗くなってきた感じがする。光量がおちてきた。
　今回は、夜に走ることを想定に入れていなかったため、出発前に電池を新品にかえるということをしなかったんだ。
　やっぱ、かえといたほうが良かったな。
　なんて思いながら。

　昔の俺は旅の友としてラジオを愛用していたんですが（聞くのはＡＭ）、最近は旅に不必要な情報を入れなくてもいいや、と無音で走っており、そうすると、テンションが下がることがある。

　そんなとき、覚えている歌をうろおぼえに歌いながら走る。

　イエロモン解散記念にと覚えているイエロモンの歌をいろいろ歌いながら走っていた。

　旅とか道関係ということで、「ＭＹ　ＷＩＮＤＩＮＧ　ＲＯＡＤ」を口ずさんでいた。
　「たまに心はぼろぼろのディスコのように光を失うけど」の部分で、それを待っていたかのようにライトが消えた。
　まあ、歩道を走っていれば前照灯がなくとも大丈夫だろう、と思いながらしばらく走り、２２時２０分ごろ、ジャスコ白根店を発見。ここも食料品フロアは２４時間営業だそうで、入店。レジわきにあったトップバリュの単３アルカリ電池４本組（俺のランプは４本使うのだ）を購入。１９８円、安い。

　さて行こうかと思ったが俺の腸内物質が体外への離脱を画策していたので、オオゴトになるまえにジャスコに戻り便所で離脱確認。

　出て一服。依然としてむしあつい。颱風のむしあつさだなあ。いつもはわくわくするが、今日ばかりは不安だらけだ。

　２２時も終盤にさしかかってくるころ、道からは歩道が消えた。
　どうやら本格的にＲ８はバイパスとしての任務を果たすつもりになったらしい。

　なんせ、思いっきりなんもないんですよ。
　ほんとに、都市と都市を結ぶためだけに存在している道。
　これと平行している県道もあり、こっちを走ろうかと思ってたんだけど、距離が長くなるし、あまり広くもない道なんだろうなと思ってヒトケタ国道を選んだんですけど。

　しかも風が強くなってきた。ＩＣレコーダには猛烈な風の音が録音されている。

　もう、漕いでも漕いでも、進まない。
　風をさえぎる建物的なものもなく、ただただ両側は田。昼間だったら実り間近な田園風景に囲まれたさぞかし爽やかなサイクリングになることだろうが。
　バイパスだからトラックを含め交通量は多く、細い路側帯を、ＬＥＤのテールランプを点滅させながら、必死で走る。すまん車の人、いまさら他の道を選ぶことができないんだ、と言いわけしながら。（いま地図を見てみると、すぐ西側に県道がありました）

　それにしても不安だ。この風はどう考えても颱風の生みだしたものだ。テレビもねえ、ラジオもねえ、車はめちゃめちゃ走ってる、どうしよう、と思ったら電話ボックスを発見。１０円を投入し、１７７の人に相談する。

　どうやら、強風警報が出ているようだ。そりゃ風も強いわ。とりあえず雨はたいしたことがないというのを確認し、１０円ぶんが切れるまで適当に１７７の人に相槌をうちながら話を聞いた。

　案内標識には三条という地名がよく出てくるようになった。そういえば新幹線で燕三条という駅に停車したな。燕の意味がわからんが、三条は新幹線の停車駅なんだな。泊まれるところがあるかもしれん。

　２３時４１分、三条市に入る。
　駅はまだ先だ。がんばろう。

　と思っていたんだけど、風はますます強くなり、とうとう自転車に乗っていられなくなってきた。

　押して歩くことにした。

　眼を見開くこともできず、ずっと細目で、風に飛ばされぬよう気をつけながらじりじりと進む。

　ホテルクリスタルというそっち系のホテルの前に自販機があったので、タフマンを買ってみた。伊東四朗を思い出したが、それはずいぶん昔のことだったな。（１５０）（2016年現在、ホテルハッピーチケットという名前になっているようです。というどうでもいい情報）

　すぐに日付は変わる。

　もう三条市街とかどうでもいいから、とにかく風を避けられるところで俺を寝かせてくれ！　という思いでいっぱいのまま、歩き続けた。

　０時３６分。反対車線がわに、大島中学校バス待合所というのを見つけた。

　横断し、自転車ごと中に入る。アストロだって入れそうな大きなトタン張りの待合所だ。扉がないのが残念だったが、風は入ってこない。
　ここだな。
　はば３０ｃｍくらいの、入り口逆側の壁いっぱいの幅に据えつけられた木製の腰掛けによこたわる。

　これはもちろん、翌朝に撮影したものです。

　屋根が飛んでしまうんじゃないかと思うほど、ぎしぎしばたばたうるさかったが、それが俺の安眠の妨げになるわけでもなく。

　ここまで４０ｋｍ。

　ちなみに新潟日報の２０日付記事。
　まあ、低く見積もっても風速３０メートルはあったんでしょうね。
http://www.niigata-nippo.co.jp/news/search.asp?id=2004082022653
＜　強い台風15号により、県内は19日夜から20日午前中を中心に強い風が吹き荒れた。新潟地方気象台によると、最大瞬間風速は佐渡市相川で38・３メートル、新潟市で33・３メートルを観測。（略）＞

　地図でいうと、このへん（マップファンの地図です）。