そのようなわけで（どのようなわけだったかは前日参照）、朝、バスは宮古駅前に到着した。

　なつかしい駅前。ちょうど１年ぶりだ。でも去年は夜に著いて宿泊しただけだから、とくに感慨はない。あすこの観光案内所で案内されたんだが、まだ朝だから閉まってるな。

　とりあえず一往の「街」である宮古駅周辺のコンビニなどで食料を確保してから汽車に乗りたかった。たしか、降りる予定の岩手船越駅前にはなかった。しかし汽車はすぐ出る。これを逃がすと１時間待ち。あーめんどくさい、あわてて乗りこんだ。

　ＪＲ山田線で岩手船越まで６駅だ。車両は、キハ１００がそういうものなのか知らんが、ボックス席とロングシートが半々ぐらいある、地方によくある形式のやつだ。紙はなかったがトイレもついてる。ボックスより足を伸ばせるので、俺はロングシートにすわりゆったりとくつろぐ。でもまあ、乗客はこの車両に俺ともうひとり。バスで隣だった人だ。

　ちなみに上がすべての荷物だ。デイパックと自転車のみ。左下は俺のサンダルのつま先だ。

　カシオの＜液晶テレビ＞でＮＨＫの天気予報をチェックする。曇り空ではあるが雨の心配はないという。まあサイクリングにはもってこいの天気。もし雨が降ったら動けず、計画通り進まないところだった。

≪無理して怪我をする恐れがあるので人力旅行は余裕をもった計画を！≫

　↑とはいえ、短い夏休みを無理やり旅に充ててんだから仕方ねえじゃんな。
　いちおう、寝ずに走れば１日余裕ができることになってるし。

　鉄道はいわゆる始発だったが、高校生ふうの者たちも乗ってくる。朝の７時にひと駅だけの駅で降りて、学校いくのか。なら家から自転車で行けばいいんじゃないか。
　と思ったが、リアス式海岸だな。ごめんごめん。

　７時１０分、岩手船越駅を下車。１年ぶりだ懐かしい。ホームを渡って駅を出て、去年は撤収作業をした自販機の前で走行モードにチェンジだ。

　マシンに＜ハンドルバーバッグ（モンベル）＞＜ヘッドライト＞＜テールランプ＞＜荷台＞（わがマシンにはゴム紐つきの荷台が標準装備されているんだけど積載能力を上げるためにサドルポストにつけるやつを追加するわけだ。タイヤが小さいのでサドルポストは長くて、ちょうどいい）＜５００ミリペットボトルホルダー＞＜シーツ＞（いぜん、自転車を剥き出しにしてて伊豆急で注意されたことがあったので包むために持ってきたんだがＪＲは難なく通れたのでただの荷物）＜食料＞＜水タンク＞（プラティパスの１リットル）＜プルオーバーのウインドブレーカ＞＜折りたたみ椅子＞＜腕時計＞などをとりつけた。荷台に乗ってんのはテリー伊藤のかぶるような帽子。

　自転車に荷物を移して随分と小さくなったデイパックを背負ってみる。
　まだ重い。電池で動くものたちが中心にパック内に残ってるからだ。でもそれらは振動に弱そうだから背負っておかないと駄目だもんな。

　我慢していたウンコが漏れそうでマズイ！　と思ったけど、こういう旅の必需品である便所巻紙を持ってくるのを忘れていたのでマズイドースル俺！　と思いながら駅のトイレに入ると前任者の残していったポケティシュがあったのでめちゃめちゃ助かったのだった。ありがとう前任者。引き継ぎ無事におわりました。

　で８時前にようやく出発だ。こっからが本番だ。今日の予定は行けるとこまで。（なもん予定じゃねえよ）

　このへんのＲ４５は、多少のアップダウンはあるけれども、まーたいした事はない。直線だ。
　時速も２０キロぐらい出ている。ものすごくいい調子だ。（実はいつもスタート直後はそのくらいなのだ。いつも忘れていて、後半の体力低下後の速度だけを覚えているから平均時速１０キロぐらいだと思いこんでいるのだ）

　キロポストや表示板によると、このままＲ４５を行くと仙台まで２４０キロぐらい。
　でもそれじゃリアス式海岸を走ったとは言えないし、俺の旅のルールとも異なる。（一番海側の国道、もしくは県道を走る）だから距離はもうちょっとこの数字に上乗せしたものになるんだろう。

　でもまあ、主に走る道はこのＲ４５だろう。よろしく、しばらく世話んなるよ。

　すぐに上閉伊郡大槌町。東北に強いコンビニＨＯＴ　ＳＰＡＲを発見したので、おにぎりを２個（２３１円）買ったらそこは吉里吉里だ。おおここが吉里吉里かじゃーこの村立小学校はさしづめ吉里吉里国立小学校なのだなあすこを歩いているのは吉里吉里人か（井上ひさし『吉里吉里人』参照）。

　小槌神社で鳥居を撮影、走り出して１時間が経っていたので休憩をとる。

　とりあえず朝メシだ。折りたたみ椅子に広げ腰かけて、おにぎりを食う。
　おお、イス便利。リラックス。
　出発前にはモバイルギアとイスとどっちにしようかと思ったものだが、うむ。モバイルギアには座れないもんな。

　この神社、なんつーこともねえ鳥居だと思ってたら、楔が鹿島型だったのでびっくり。鹿島型の北限をここに決定する。（鹿島型楔については、いずれ萬有鳥居研究所でやろうと思ってんですけどねえ。需要がねえ）

　で、９時半、釜石市に入った。なかなか良いペースだ。市街地はまだ先だけど、昼飯は釜石市街で食えることだろう。

　そういえば、俺はこの旅で一つの目標として〔タバコのみになる〕ことをあげていた。
　世のマナー無しスモーカーに手本を見せるためにも、と携帯灰皿も持ってきていた。あとタバコって大人って感じがしてかっこいいし。ちなみに俺は今年で２５歳。四半世紀も生きてきてこれか。
　とはいえ、これまでぜんぜん吸ったことのない俺なので、どのタバコがどうなのかサッパリわからん。とりあえず、ここから最初に出会った自販機の上段左から３番目のを買おう、と決めて最初に見つけた自販機の所定の場所にあったのはケントマイルド（２５０円）。ケントなんてアゴの割れた白人がパツキン女をはべらせて吸うもんだと思ったが、決まったものは仕方がない。買った。とりあえず人のいないところで吸おう。

　馬田岬へは県道が通っていた。俺内ルールである〔入口と出口がある〕にも合致する（同じ道を往復すんのは嫌い）。俺の使っている『ツーリングマップル　東北』（昭文社。今回は当該部分のコピーだけ持ってった）によると「三陸リアス式海岸を体験」となっている。東北版の監修は俺がバイクの師と仰ぐ賀曽利隆だ。よーし俺も体験してやろうじゃないか、とパチンコ屋の脇の道から侵入。（ちなみに俺は原付にしか乗れない）

　道路には、刈払い機で草刈りをしている人たち。俺もやる人なので少しばかり共感を覚えながら通過。
　映画「釣りバカ日誌」にも登場しているという旅館（花の井ホテルかな）や海水浴場をも無視して少しく進むとまわりは完全に林。勝負はここからだ、と思ったのも束の間、アスファルトは砂利に変わった。
　な、なんだ工事中か？　あわてて自転車を降りて押して歩く。
　いつまでたっても砂利道。これ林道だ。

　　ここまできておいてなんだが、引き返すことにした。ＭＴＢならまだしも俺のは１６インチだ。のぼりも下りも自転車にまたがることはできないだろう。それって林道トレッキングじゃん。

　そういやパチンコ屋の脇からの入り口、なんの標識も出てなかったもんな。道路として認識されてないんじゃん。（『ツーリングマップル』はライダー用の地図だからだ。家に帰って凡例を確かめたら、「三陸リアス式海岸を体験」についてたマークはダート情報のマークだった。俺が悪い）

　残念な気持ちだったが同時に、楽をできて良かった的な感情が俺の中に同居していた。正直、しんどいだけの道だもん。
　半島をパスしたことにより、釜石市街がいっきに近づいた。

　そんなわけで、２キロぐらいあったトンネルを出たらそこは街。とりあえず「釜石市街」の方向へ自転車を進めると、恐らくここが釜石のメーンストリートであろう道。両側には店が居並び歩道にはがっちりした屋根がついている、多少なりとも歴史のある地方小都市にありがちな中心部のすがた。

　ファミレスなどでぐたっと休憩してえなあ、などと思いながらその歩道をちんたらと進むが、もうそれらしきものは全くない感じ。
　ふつうの定食屋ふうの店だと、休憩のための長居ってあんまりできにくいし、俺の格好を見て旅人だと思われて話などをするのは面倒だ。（そりゃね、旅して１８日目とか日本一周中とかならいいよ。でも、昨日出発してあさって帰るんです、みたいな話をしたくない。一般の人の旅人イメージくずしちゃうっつーかそれ言って変に話のテンションが下がったりすんのもヤでしょ。だから、将来的に長期旅人になったらそうゆうとこ利用するだろうけど今はちょっと遠慮させてもらっているのだ。よって定食屋が嫌いなわけではないです）

　このまま食うとこ見つかんなかったらどうしようと思いながらその商店街ふうロードにモス発見。前に書いたことがあるかよく覚えてないけど俺はモス大好き人間であるのですぐさま停車、自転車に＜カギ＞（ワイヤーロック。３桁のダイヤルでする）かけて入店。ナンカレードッグ、フレッシュバーガー、アイスコーヒーのＬ（９８７円）。
　ふう。１１時。

　背中が汗びっしょりだ。同じくデイパックのショルダーストラップのあったところがびっしょり濡れて、脱いでも背負ってるみたいにシャツの色が変わってる。
　そういえば、水分は前日に品川駅前コンビニで買ったペットボトル茶を飲み干したのみ。今日の水分量、あきらかに出たほうが多い。アイスコーヒーＬごときで補えるわけもなかったが、とりあえず先に食欲を満たそう。
　ガツガツと食い終わり、コーヒーを残して休憩タイムに入る。友人へ何枚かハガキを書いた。

　それにしてもモスの飲みものは紙コップのときとガラスのときがあるけどなんなんだろう。同じ店でもそうだ。なにか理由があるんだろうか。俺はストローを使わない主義なので、紙コップのふたを外して飲むんだけど、そうすると紙コップってやわいでしょ。そのへんなんかヤなのね。ガラスのほうがいいなあ。以上余談。

　地図を見る。リアス半島をひとつパスしたおかげで当初の予定より少し早い。ゆっくり休める。昼寝してもいいかもしれない。というか眠い。

　隣に男１女２の３人組の、カップルともう一人みたいな感じの３人。カップルは顔を寄せ合って話してるけど一人の女は無言でただ座っていた。女はけっきょく席を外した。

　さーて。１１時４６分。モスを出た。

　まずは釜石大観音だ。まー俺も仏友会主宰であるから、たとい昭和４５年製の仏とはいえ、巨大仏を目の前にして無視するわけにもいくまい。
　Ｒ４５を２キロばかり進んで、看板にしたがって側道に降りる。大観音の後姿が見えた。海に向かって立っているのだな。

　駐輪場はなかったので駐車場の隅っこに自転車を停めてカギかけてうんこ踏んで観音へ。
　仲見世とか呼んでたような気がするが煤けた土産物屋街を抜けると門。所定の５００円を払って券とリーフレットを受け取り中へ。
　長い長いエスカレーターで上へ。さらに少しく進むとそこはもう観音のお膝元だ。すぐに足下から胎内に侵入。
　らせん階段をぐるぐるぐるとのぼっていく。途中には三十三観音や七福神が配されている。東北ふうのナタ彫り仏だが古いものではない。ざっと見て通過。
　のぼるうちに階段の幅は狭くなりすれ違うのもやっとというくらいになったところで出口だ。
　ちょうどこの魚藍観音が持っている魚のあたりが展望スペースだ。

　あおい空とあおい海が邪魔っけな柵ごしに見える。風はけっこう強い。そりゃまあ高いとこだし。
　像高は４８、５メートルというから、丈六ならぬ十六丈仏と呼ぶのか知らん。
　展望部はだいたい３０メートルぐらいなのかな。でも観音の立っているところが半島の山上にあるので海抜は１００メートルを越え、結構な高さだ。でもまあ、海を見るのに高さはそれほど必要な気がしないな、うん、意味ない。

　するりとらせん階段をおりて外のベンチにねっころがる。
　あぢー。背中びしょびしょ。こればっか。
　しばらくごてっとして、登った人が降りてくるぐらいの時間をすごし、なんとか気合を入れて立ち上がって隣の仏舎利塔へ。仏舎利とはすなわち釈迦の骨であり仏舎利塔はそれをおさめているもののことだ。

　俺はそんなもの拝むような男ではないし仏舎利も拝まれるようなものではない。そもそも釈迦は自分の骨を拝んでくれとは言ってないはずだ。少なくとも俺は聞いてない。だから仏舎利なんて俺にとっても釈迦にとっても鼻糞のようなかけらに過ぎない。
　だから仏舎利の収められているドーム状のなんかを横目に地下へ降りた。

　地下にはなんか仏の像や画などが置かれていた。まー現代の作であり、とりたてて見るべきものは無かったわけだが、ゆいいつ愛染明王の立像が俺の目を引いた。愛染っていっつも座ってるじゃん。
　やー珍しいもの見たと思いながらそこを出てトイレで大便をして寺を去った。もう１３時を過ぎている。

　釜石工業高校のグラウンドの前の自販機でＭＭＣのウーロン茶を買ってすぐ飲み干す（１００円）。

　Ｒ４５にもどる。ちょうど観音の反対がわに位置するのが市立「鉄の歴史館」だ。
　正直な話、俺は館とか園とかにはマニアと言っていいくらいの興味を示す男なのでよし行くぜ、と思っていたんだが、国道からその姿は見えず案内板の先には上り坂。
　えーもーナニナニのぼんののぼんないのどのくらいのぼんのわかんなかったら行けないようと思ったけれど、おそらくここへ立ち寄る機会は今後５年はないと思ったので自転車を押してのぼっていった。

　そしたらけっこうすぐだった。（地図とか見ないのかな俺）

　展望テラスからの眺めはなかなかのものだったが（冒頭の写真参照）、展示はたいしたこと無かった（５００円。まあ、俺が鉄に興味がないからかもなので、鉄マニアは行ってもいいかも）。

　といいながらけっこうダラダラすごし、けっく館を出たのは１４時を過ぎていた。

　Ｒ４５を少し走るとすぐに県道の入口。南リアス線平田駅のあたり。べつに案内標識もないので何度か地図を確認し、よっしここだな、じゃー補給だ、と５０メートルぐらい戻ってＨＯＴ　ＳＰＡＲでアクエリアスの５００ペットと「クリーム」を買った（６５７円）。
　というのは今レシートを見ていて思い出したんだけど、これ補給じゃないな。
　ちなみに「クリーム」(ワイレア出版）は雑誌。どんな雑誌かはまあ、あれです。ちらっと立ち読みしてて猛烈な衝動が俺を襲い食いものを買うことなくレジへ直行してしまったのだった。軽蔑するならすればいいさ。

　で１４時半ごろ県道２４９に入る。ぐねぐね半島ロードだ。

　すぐに小さな祠にレアっぽい鳥居を発見した。自転車を停めて写真を撮る。

　撮り終えて自転車にまたがり、よっこいしょと漕ぎだしたら後ろでがしゃんとものの落ちる音。
　荷台に乗せていたなんかが落ちたのかなー、と思って自転車を停めて振り返ったら、荷台ごと落ちてた。

最初のほうに書いた気がするけどこれは自転車標準装備のものではなく、サドルポストにつけるタイプだ（ゼファール製）。振動でネジがゆるんで取れちゃったらしい。

　でも、あたりを探しまわっても見つからない。ネジ１個は見つかったがもう１個のネジとそれを留めるナットってのかな、ぜんぜん見当たらない。じゃーナットが無くなったままネジ１本でしばらくふつうに走ってたのか。どういうこった。

　どういうことかわからないけどなんともならん。デフォルトの荷台にそのまましばりつけて行動再開したが、やっぱどーにもテンションは下がったまま。のぼり坂を漕いでいく気力が失せた。自転車を降りてずいずい押して行く。

　他にすることが無いので、たくさんいろんなことを考えながら押していたとは思うんだけど、その内容はぜんぜんおぼえてない。じわじわと滲み流れる汗を無視して、ただただ足を一歩ずつ前に進めていく単調な作業を続けた。時速は５キロぐらい。
　１６時ごろ＜カロリーメイト＞を口に入れ、アクエリアスを飲んだ。と記録にはあるが情景の一つも思い出さない。まー、こういったぐねぐね道は慣れているし死ぬほどやってきたから、他の記憶とごっちゃになってんのかも知れない。
　あでも、やっぱイチバン思い出したのは紀伊半島。同じリアス海岸だからかもしれない。いくら行っても峠につく自信を無くさせるようなワインディングの繰り返し。俺以外の人間には苦痛にしか見えないだろう。もちろん俺にも苦痛だ。ただ、うーむこれでこそ俺のチャリ旅、みたいな実感が、いつもこんなときに沸いてくる。

　１６時半ごろ、ようやくＲ４５に復帰。目の前にはラーメン屋。うおー入りてー！　と思ったけどカロリーメイトのせいで空腹じゃあない。ラーメンなどのこってり系は腹にもたれそうだし、まだまだ走る予定の俺には重い気がした（昔は食ってたんだけどねえ。若かった）。あと前述のとおり店の人間と旅の話をするのもめんどい。
　店の前の自販機で三ツ矢ホワイトソーダ３５０ミリを買ってバス停かなんかのベンチにこしかけ休憩（１２０円）。

　１０分ぐらい休んで、のろのろ動き始める。このへんの日の入りは１８時半ごろなのでまだまだ明るいはずだが俺の記憶はどうも薄暗い。曇ってたからかな。

　そして１７時を過ぎ、また県道への入口。こんどは県道２５０吉浜上荒川線だ。いちおう半島に入ってしばらくはイッショーケンメー自転車を漕ぐ。坂もしばらく漕ぐ。ある点（俺の気持ちの途切れ）で、だーもういーや、と自転車を降りて押し始めることになる。そうなると、峠を越えて下りになるまで自転車にまたがる事は、俺の場合、ない。

　そして１時間。１８時前。自転車を停めて道端で立ったまま休憩。そうだ、タバコだ、タバコ吸ってみよう。ラ、イ、ターは、あったあった。たしか吸いながら火をつけるような話だったな。なんつーかこの３４０度ぐらい木々に囲まれたこの空間でタバコを吸う俺、かっこいい。

　ゲホ、ゴホ、げー、まず！　タバコまず！　なんじゃこら。ただの煙やないかワレ。

　なんとか１本吸い終えて、携帯灰皿に入れ、休憩終了。よけいに体力を消耗した気がする。

　うー。息をすると口の中がタバコ臭いよー。きもちわるいよー。

　１８時１５分、気仙郡三陸町。地図でいうとちょうど半島の中間地点だ。まだ半分かよ。
　前述のとおり、日の入りは半ごろ。これから本格的に暗くなってくるのだ。

　走っていたら、なんかガサって音。音のした林のほうに目をやると２頭の鹿が逃げていくのが見えた。おー、いー。これ車やバイクだったらもっと早く逃げられてたろうし、逃げる足音なんて聞こえなかったろう。徒歩ならおそらく逃げられただろう。静かでそこそこの速度である自転車ならでわの事だと思った。（まあ鹿が道路を横切るのにバイクは遭遇したりするそうだが）

　Ｒ４５に戻ったのは１９時前。もう真っ暗だ。しばらくはぐねぐねする国道を走った。

　１９時半。次なる半島への入口だ。こんどは県道９大船渡綾里三陸線だ。Ｒ４５との分岐のところには旅館があり２４時間風呂のみ利用オッケーみたいなのが書いてあり風呂入りてえなあと思ったけれど、基本的にそういうの苦手で人と話すのが好きじゃないというか、まーいーや。

　全日食チェーンがあった。俺はＺチェーンはあんまり好きではなく期限切れのソーセージなどを買った経験があったりでアレだったがここで買わないとこのあと無いだろ、と思ったので仕方なく入店。三ツ矢さわやかクールパイン５００ミリペットとソーセージ３本、バタピーを買った（３８１円）。

　あたりまえだが、昼との違いは暗いということ。
　それにすずしい。そのくらいの違いであり結局ぐねぐね道を押し続ける。読者にとっては大変つまらない展開。

　実はここまで、いつもの俺には珍しくノーＢＧＭだった。持ってきているＲｉｏ５００も使わず、ラジオも聞いてなかった。
　ただ、暗い山の中を無音で走る（押す）のは淋しいのでラジオを聞くことにした。巨人戦でも聞こう。
　俺のラジオはいまどきの全国の局の周波数を覚えているような機能は無く、ラジオが勝手にサーチするタイプのそんなやつだ。それでイチバンいい感じだったのが１４４０。ＳＴＢといったか、北海道の局らしい。ラジオ日本のナイターをネットしているようだった。

　どうせなら地元局のほうが天気予報とかも役立っていいんだけどなーとか思いながら仕方なく聞いてたんだけど、このラジオ日本の実況が面白くて。まだ話題になってないみたいだから言っとくけど要注目ですぞ。あと東京新聞の投書欄。（2000年当時のことなので、いまはどうか知りません）

　おもしろく聞きながらじわじわ進む。方位磁針を見ると進んでんだか戻ってんだかよくわかんなくなってくるぐらいぐねぐねしているのがリアス式の醍醐味。

　ナイターも終わって中居正広の番組が始まったあたりでなんか俺は猛烈な疲労感。

　あーだめだ、とゆーか眠いのか。ちょうど港ふうのところへ行く道があり、それはそのまままっすぐ行くと気象ロケット観測所へも行けるんだが、そっちへは行かず港というか釣り客がいそうなところの脇に公園ふうスペース。藤棚の下のベンチに陣取って、ここで寝ようと思った。

　仰向けになって目を閉じる。ラジオを消した。

　なかなか寝付けない。そもそも眠いというのは気のせいだったような気もしてきた。でもまあ目を閉じて体を横たえていれば自然に寝付くんじゃないだろうか。

　自然に寝付いたが自然に目覚めた。寒い。Ｔシャツを一枚着て、プルオーバーのウインドブレーカーを着てしゃかしゃかするスウエットのパンツをはいた。

　でもまた寒くて目覚めた。目覚めたというか寝たのか俺。

　ガタガタガタ。今のは寒くて震えている所を文学的に表現してみた。
　だ、だめだ、寝られない。なんか無いのか俺。

　そうだ、電車に乗るときに自転車を包もうと思っていたシーツだ、あれにくるまろう。こんなところで役に立つとは思わなかった。

　薄いシーツにくるまってもまだ寒いし、木でできたベンチは体が痛い。
　いくらか寝たとは思うけど、もうだめだと思ったところで日付は変った。